奇遇
夢のような恋の話が、語るたびに現実味を帯びて崩れていく――ロマンと種明かしのせめぎ合いが妙におかしい一篇。
✈️ 出発30分前の編集部
編輯者
中国行くんですよね。南から?北から?
📝
🎩
小説家
南から北へぐるっと。準備はだいたいOKです
編輯者
原稿もだいたいOKってことですか?
📝
🎩
小説家
いや、旅行の本が多すぎて全然読み切れません
🎩
小説家
日本の本だけでも山ほどあってですね、さらに現地の本、西洋の本も――
編輯者
本の一覧はもう大丈夫です
📝
※作家、急に読書メーターのスクショを見せてくるタイプ
編輯者
それより出発前に小説ください
📝
🎩
小説家
そのつもりではいるんですが……
編輯者
で、いつ出発なんです?
📝
🎩
小説家
今日です。五時の急行で
編輯者
今日!? もう30分しかないじゃないですか
📝
🎩
小説家
僕もそこ、今いちばん気にしてます
※締切に追われる人間、だいたい現実認識だけは正確
🎩
小説家
机の引き出しに未発表原稿があるかも
編輯者
それ最高です。論文じゃなければ
📝
🎩
小説家
『文芸に及ぼすジャーナリズムの害』って論文ならあります
編輯者
それは今この場で一番気まずいやつです
📝
🎩
小説家
じゃあ小品を読みます。題は『奇遇』
🌙 作中の昔話スタート
👘
王生
最近ちょっと遊び歩く気分じゃないんだよね
🍶
趙生
え、あの君が? 絶対なんかあったでしょ
🍶
趙生
しかもこの恋っぽい詩。完全に好きな人いるやつじゃん
👘
王生
……まあ、好きな人はいる
🍶
趙生
ほら見ろ。で、この指輪は誰の?
👘
王生
話すと長いけど、たぶん夢みたいな恋なんだ
🚣 去年の秋、川くだりの帰り
👘
王生
川辺にいい感じの酒場があってさ。休憩したんだ
👘
王生
そしたら幕の向こうから、誰かがずっとこっち見てる気がして
👘
王生
きれいなかんざしとか耳飾りがちらっと見えて、顔まで一瞬見えた気がした
🍶
趙生
もうその時点で恋のBGM流れてるじゃん
👘
王生
その夜、舟で寝たらまたその家に行く夢を見た
👘
王生
奥には葡萄棚、池、緑のオウム、月のきれいな部屋。そこにものすごく美しい人がいた
🍶
趙生
夢の背景、美術班が本気すぎる
👘
王生
少し話して、その人が笛を吹いてくれた。それで目が覚めた
👘
王生
でもそれ以来、毎晩その人の夢を見るんだ
👘
王生
しかも夢で扇の飾りを渡したら、現実では枕元にこの指輪があった
🍶
趙生
急にホラー寄りのロマンス来たな
👘
王生
夢でも現実でもいい。僕はその人を忘れられない
🍶
趙生
じゃあ次にそこ通る時、寄ってみなよ
💞 十日後
🍶
趙生
え、ほんとに美女連れて帰ってきたんだけど!?
👘
王生
向こうも去年から僕のこと夢で見てたらしい
※奇跡の両想い。友人たち、恋バナの供給で大盛り上がり
編輯者
いいですね。ロマンある。これで掲載しましょう
📝
🎩
小説家
いや、まだ続きがあるんです
🦜 実はこうだった
👘
王生
やっと芝居が無事に終わったね
👒
少女
ほんとですわ。夢の恋って設定、ひやひやしました
👘
王生
君のお父さんにも友達にも、つい話を盛っちゃってさ
👒
少女
じゃあ本当のこと知ってるの、ほぼ私たちだけ?
🦜
鸚鵡
私。私。
※唯一の完全目撃者、オウム。情報管理が雑談力に全振り
編輯者
そこ蛇足では? 夢の余韻が消えます
📝
🎩
小説家
まだ後があります
👴👵 さらに実はこうだった
👴
父
いやあ、うまくまとまってよかったねえ
👵
母
よかったけど、あの子たちの苦しい作り話を聞くの大変でしたよ
👴
父
まあまあ。若い二人も照れくさくて、ああ言うしかなかったんだろう
👵
母
お前さんも泣いてるじゃないですか
※真相、だいぶ家族公認だった。ロマンスの裏で親が全部見守っている
編輯者
いやいや、もうその先いらないです。途中で切った方が絶対いい
📝
🎩
小説家
そこで切られるのは困るんですが……
編輯者
ていうか急がないと列車乗れませんよ! 早く車呼んでください
📝
🎩
小説家
あ、ほんとだ。じゃあ行ってきます。原稿よろしく
編輯者
はいはい、いってらっしゃい
📝
- ▶物語はどこで切るかが大事
- ▶ロマンは真相で揺らぐ
- ▶偶然より語り方がドラマを作る
芥川竜之介『奇遇』のあらすじ
中国旅行を目前にした小説家は、締切に追う編集者の前で、引き出しから未発表の小品『奇遇』を取り出して読み始める。作中では、王生という青年が夢の中で出会った美しい少女に恋をし、後に本当にその少女と結ばれるまでが、幻想的な雰囲気で語られる。ところが話はそこで終わらず、実は二人が周囲に夢物語めいた説明をしていただけだという裏側が次々に明かされていく。ロマンを守りたい編集者と、まだ続きを読ませたい小説家のやり取りが重なり、物語そのものの面白さが浮かび上がる。
『奇遇』の作者について
芥川龍之介(1892-1927)は、大正期を代表する小説家で、『羅生門』『鼻』『藪の中』などで知られる。古典や中国の説話をもとに、語りの技巧や視点のずれを生かした作品を多く残した。『奇遇』も中国の伝奇風の恋物語を下敷きにしつつ、編集者と小説家の会話を重ねることで、物語の作られ方そのものを軽やかに戯画化した作品である。
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