或日の大石内蔵助
大仕事をやり遂げた男が、世間の称賛と美談化のなかで、かえって言いようのない寒さを覚える一篇。
🌸 春の午後。討ち入り後、預かり先の座敷。
大石内蔵助
今日はあったかいな。やっと肩の荷が下りた感じするわ。
🧔
👴
吉田忠左衛門
ほんとですな。眠くなるレベルの平和です。
※数年がかりの大仕事を終えた人たち、急に日向ぼっこモード。
大石内蔵助
ここまで来るの、長かったからなあ。
🧔
👴
吉田忠左衛門
もう春なんて見られんと思ってましたし。
🚪 そこへ早水が戻ってくる
💪
早水藤左衛門
下の間、めっちゃ盛り上がってますよ。で、面白い話あるんですが。
👴
吉田忠左衛門
その前置き、だいたいロクでもない話ですな。
💪
早水藤左衛門
最近、江戸で“かたき討ちごっこ”みたいなの流行ってるらしいです。
大石内蔵助
……は?
🧔
💪
早水藤左衛門
米屋の主人が風呂屋でケンカして、店の子が『主人の恨み!』って仕返ししたとか。
※社会現象のクセが強い。
👴
吉田忠左衛門
それはまた、だいぶ雑な影響の受け方ですな。
💪
早水藤左衛門
でも評判はその子の方がいいらしいです。いやあ、我らも有名人。
大石内蔵助
……そういう広がり方、あんまりうれしくないな。
🧔
※本人だけ、バズり方に微妙な顔。
🙋 細川家の堀内伝右衛門、参戦
🛡️
堀内伝右衛門
皆さまの忠義、町人まで感動して真似したくなるんでしょうな!世の中が引き締まる!
大石内蔵助
いや、そんな立派に言われると、むしろ気まずいんですが。
🧔
大石内蔵助
そもそも全員が最後まで残ったわけでもないしな。途中で抜けた者もいた。
🧔
💪
早水藤左衛門
あいつらですか。ほんと情けない。
👴
吉田忠左衛門
あのへんは、かなり残念でしたな。
🛡️
堀内伝右衛門
世間でも評判よくないですぞ。下手したら斬られてもおかしくない、みたいな勢いで。
※褒めるために誰かを悪役にする、ありがちな雑な構図。
大石内蔵助
いや……そこまで言わんでも。人って、そんな単純じゃないだろ。
🧔
💪
早水藤左衛門
え、そこフォローするんですか。
大石内蔵助
俺たちを持ち上げるために、あっちを全部ダメ扱いするのは違う気がする。
🧔
🛡️
堀内伝右衛門
いやいや、何より内蔵助殿ご自身がすごい!あの遊び人ムーブ、全部作戦だったのでしょう!
✍️
小野寺十内
京都でも有名でしたからな。お店通いも、お祭り騒ぎも、敵をだますための名演技ってことで。
🛡️
堀内伝右衛門
苦しかったでしょうなあ。心にもない遊びをしてまで忠義を通すとは!
大石内蔵助
……いや、その解釈もだいぶ盛ってる。
🧔
※本人しか知らない“ちょっとは普通に楽しんでた時間”が、今さら地味に刺さる。
大石内蔵助
全部を美談にされると、逆に息苦しいんだよな……。
🧔
✍️
小野寺十内
またまたご謙遜を。
🛡️
堀内伝右衛門
後の世まで語り継がれますぞ!
※その“語り継がれ方”が、たぶんもう本人の手を離れている。
🔥 火鉢の火も少し弱くなる
大石内蔵助
……ちょっと外の空気、吸ってくるわ。
🧔
🌆 縁側。梅の香り、夕暮れ。
大石内蔵助
やることはやった。なのに、なんでこんなに寒いんだろうな。
🧔
※勝ったあとに来るのは、拍手とは限らない。妙に静かな孤独だったりする。
- ▶英雄像と本人の実感はズレる
- ▶世間の賞賛はときに雑で残酷
- ▶達成のあとにも孤独は残る
芥川竜之介『或日の大石内蔵助』のあらすじ
討ち入りを終え、預かり先で静かな午後を過ごす大石内蔵助は、ようやく訪れた安らぎに満足していた。ところが仲間たちや細川家の家臣との雑談の中で、自分たちの行動が世間に奇妙な形で広まり、さらに過剰な忠義の物語として語られていることを知る。裏切った者たちが一方的に罵られ、自身の放蕩もすべて高潔な作戦として持ち上げられるにつれ、内蔵助の心には違和感と寒々しさが広がっていく。最後に彼は一人縁側へ出て、梅の咲く夕暮れの中で、説明しがたい寂しさに包まれる。
『或日の大石内蔵助』の作者について
芥川龍之介(1892-1927)は、大正期を代表する小説家で、古典や史実をもとにしながら人間心理の皮肉な真実を鋭く描いた。『羅生門』『鼻』『地獄変』などで知られ、英雄や善悪の単純な図式を疑う視点に特色がある。この作品でも忠臣蔵の名場面をそのまま称えるのではなく、英雄視される本人の内面に潜む違和感と孤独を描き出している。
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