セロ弾きのゴーシュ
うまく弾けない青年が、夜ごと訪れる動物たちとの奇妙なやり取りの中で、自分の音と向き合い直していく。
🎻 町の楽団、練習中
🎩
楽長
ゴーシュ君、また遅れた。そこ、全然合ってない。
ゴーシュ
す、すみません…
🎻
🎩
楽長
音の表情もないし、みんなから靴ひもほどけた人みたいに遅れてるんだよ。しっかりして。
※言い方はていねいなのに、刺さり方はしっかり重い。
🌙 その夜、川ばたの水車小屋
ゴーシュ
くっそ…練習するしかない…!
🎻
🚪 トントン
🐱
三毛猫
先生、トマト持ってきました。で、シューマンの『トロメライ』お願い。
ゴーシュ
まず勝手に畑のトマト取るな。あと先生でもない。
🎻
🐱
三毛猫
細かいことは置いといて、聴いてあげます。
※上から来る猫、だいたい強い。
ゴーシュ
よし、じゃあ特別メニューだ。『印度の虎狩』いくぞ。
🎻
💥 爆音セロ開演
🐱
三毛猫
いやそれ虎が暴れてるやつ!!話が違う!!
ゴーシュ
まだ虎つかまえてないから。ここから本番。
🎻
※猫、完全に被害者ポジへ。
🕛 次の晩
🐦
かっこう
音楽を教わりたいです。ドレミファを正確にやりたいんです。
ゴーシュ
君、いつも『かっこう』しか言ってなくない?
🎻
🐦
かっこう
そこが深いんです。『かっこう』にも無限の差があります。
ゴーシュ
急に芸術論つよいな。
🎻
🐦
かっこう
じゃ、合わせます。かっこう、かっこう、かっこう。
🎼 延々とかっこう練習
ゴーシュ
…あれ、こいつのほうが音にまっすぐじゃないか?
🎻
※人間、鳥に音楽の芯を見せつけられる深夜。
ゴーシュ
もう朝だ、帰れ帰れ。
🎻
🐦
かっこう
あと一回だけ…日の出まで…
🪟 ガラスに激突
ゴーシュ
うわ、そっち窓閉まってる!!待て待て!!
🎻
💨 窓を壊して脱出
ゴーシュ
…なんかすごい熱量だったな。
🎻
🌃 さらに次の晩
🦝
狸の子
こんばんは。ぼく、小太鼓担当です。セロに合わせに来ました。
ゴーシュ
この家、夜の音楽教室になってる?
🎻
🦝
狸の子
『愉快な馬車屋』お願いします。
🥁 セロの駒の下をポンポン
ゴーシュ
お、いいじゃん。リズム合うな。
🎻
🦝
狸の子
でも二番目の糸、ちょっと遅れるね。そこでぼく、つまずく感じ。
ゴーシュ
えっ…やっぱりそこか。
🎻
※楽長の圧では拾えなかったズレを、狸がふつうに見抜く。
🌌 また別の晩、明け方
🐭
野ねずみのお母さん
先生、この子を助けてください。具合が悪いんです。
ゴーシュ
いやいや、俺は医者じゃない。セロ弾き。
🎻
🐭
野ねずみのお母さん
でも先生の家の床下で、みんな元気になるんです。音が効くんです。
ゴーシュ
え、俺のセロ…そんな使い道あったの?
🎻
🎻 子ねずみ、セロの中へ
ゴーシュ
よし、振動でいってみよう。しっかりつかまってろ。
🎻
〰️ ごうごう演奏
🐭
野ねずみのお母さん
もう十分です!たぶん効いてます!
🐭
子ねずみ
…なおった!
ゴーシュ
ほんとか。じゃあパン持ってけ。お大事にな。
🎻
※深夜の往診、報酬はおじぎ大量。
🏛️ 音楽会当日
🎩
楽長
本番、無事に終わったな。…ん?アンコール?
🎤
司会者
何か短い曲、お願いします!
🎩
楽長
うーん…ゴーシュ君、出て弾いて。
ゴーシュ
は??? なんで俺???
🎻
※急な無茶ぶり、しかし人生はだいたいここから動く。
✨ 舞台へ押し出される
ゴーシュ
よし…なら『印度の虎狩』でいく。あの猫に鍛えられたやつだ。
🎻
🔥 全力演奏
👏
観客
……
※静まり返る客席。これは刺さってる時の沈黙。
🎩
楽長
ゴーシュ君、よかったぞ。十日前と別人じゃないか。
🎺
仲間たち
よかったよ!めっちゃよかった!
ゴーシュ
……そっか。ちょっとだけ、わかったのかもしれない。
🎻
🌠 その夜、家にて
ゴーシュ
かっこう、あの時は悪かったな。怒ってたんじゃないんだ。
🎻
- ▶下手でも、向き合い続ければ音は変わる
- ▶他人のひと言が才能をひらくこともある
- ▶音楽は技術だけじゃなく、心と耳で育つ
宮沢賢治『セロ弾きのゴーシュ』のあらすじ
町の活動写真館でセロを弾くゴーシュは、楽団の中でも特に下手だとされ、楽長に厳しく叱られていた。音楽会を前に必死で練習する夜、三毛猫、かっこう、狸の子、野ねずみの親子が次々と訪れ、それぞれのやり方でゴーシュの演奏に関わってくる。戸惑いながらも動物たちと音を交わすうちに、ゴーシュはリズムや音の出方、表現の手がかりを少しずつつかんでいく。そして本番後の思いがけない場面で、彼の演奏はこれまでとは違う響きを見せる。
『セロ弾きのゴーシュ』の作者について
宮沢賢治(1896-1933)は岩手県出身の詩人・童話作家で、自然や動物、音楽への深い感受性をもつ作品を多く残した。『銀河鉄道の夜』『注文の多い料理店』などで知られ、理想や祈りを童話の形に託した作家として読み継がれている。『セロ弾きのゴーシュ』には、賢治自身の音楽体験や、芸術は他者との交感の中で磨かれるという感覚が色濃く表れている。
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