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斜陽

太宰治

失われていく家族と身分の余熱の中で、ひとりの女が愛と生をつかもうともがく切実さに引きずり込まれる。
🍽️ 朝の食堂
かず子
お母さま、スープひと口で「あ」って言ったけど大丈夫? 髪の毛とか?
👒
🌸
お母さま
いいえ。なんでもないの
※なんでもない顔で食べ方だけは圧倒的に上品。マナー本のほうが謝ってほしいレベル。
かず子
お母さまって、ほんものの上品さなんだよなあ。私はやるとただ不器用になるのに
👒
🌸
お母さま
朝ごはんがおいしくならなきゃ、まだ駄目ね
かず子
え、そこ判定入るの
👒
🌸
お母さま
だって私は病人じゃないもの
※さらっと言うが、娘の胸には重く刺さる。家の空気は静かで、心だけがざわつく。
🐍 庭の竹やぶ
🧒
近所の子どもたち
蛇の卵みつけた! たぶんやばいやつ!
かず子
え、庭に増えたら困る。焼こう
👒
※判断が早い。だがだいたいこういう時、あとで心が追いつかない。
👧
近所の娘
それ、たぶん普通の蛇の卵ですよ。生の卵って、なかなか燃えませんし
かず子
えっ……じゃあ埋める。ちゃんと埋葬する
👒
🌸
お母さま
可哀そうな事をするひとね
※正論が静かすぎて逆につらい。しかもこの家、蛇にまつわる記憶が妙に濃い。
🏡 東京の家を手放し、伊豆へ
👔
和田の叔父
時代が変わった。もう都会の大きな家は無理だ。田舎で小さく暮らしたほうがいい
🌸
お母さま
そう……よろしくお願いします
かず子
見ないで決めるの?
👒
🌸
お母さま
目をつぶって移ってもいい気がするの
※信頼が深い。深すぎて、見てるほうが不安になるタイプのやつ。
🚚 引っ越し準備
🌸
お母さま
かず子がいてくれるから、伊豆へ行くのですよ
かず子
私がいなかったら?
👒
🌸
お母さま
死んだほうがよいのです
※重い。夜の布団で言うには重すぎる。でも本音だった。
🌊 伊豆の山荘生活スタート
かず子
景色やわらかいし、空気おいしい。ここ、思ったよりいいかも
👒
🌸
お母さま
ええ。ここの空気は、おいしい
🤒 しかしその夜
かず子
お母さま熱39度!? 引っ越し初日でそれは聞いてない
👒
🧑‍⚕️
村医者
肺炎になるかもしれませんでございます。けれども御心配はございません
※心配しか増えない言い方だが、なぜか効く注射は打つ。
🌸
お母さま
本当に名医だわ。もう病気じゃない
🔥 深夜の事件
かず子
やば、薪が燃えてる! 火事! 中井さん、助けて!
👒
🧑
中井さん
今行きます! バケツ回しましょう
🌸
お母さま
ああっ
※村じゅう総出で鎮火。もう少し風が強ければ笑えないどころではなかった。
かず子
私の火の始末ミスです……ほんとにごめんなさい
👒
👮
二宮巡査
今回は届けにしないでおきます。気をつけてください
🌸
お母さま
なんでもない事だったのね。燃やすための薪だもの
※この家の最強の消火器、母のひと言。娘の罪悪感だけは燃え残る。
💌 弟の知らせ
🌸
お母さま
直治は生きているそうよ。でも、かなり悪い癖をまた抱えているらしいの
かず子
また……? しかも帰ってきたらこの家で静養って、現実が急に重い
👒
🌸
お母さま
それから叔父さまが、あなたの嫁ぎ先か勤め先を考えなさいと
かず子
は? 私ここでお母さまと生きていくつもりだったんだけど
👒
かず子
私って用が済んだら退場なの? 地下足袋で畑やってるの、わりと本気なんだけど
👒
🌸
お母さま
お前は、馬鹿だねえ
※ついに母の一喝。やさしい人が怒ると、空気がまっすぐになる。
🌸
お母さま
叔父さまのお言いつけにはそむきました。着物を売ってでも、あなたを手放したくありません
かず子
……ごめんなさい、お母さま
👒
❤️ かず子の胸の中
かず子
私、人間だけが持ってるもの見つけた。ひみつ、だと思う
👒
※ここから恋が始まる。よりによって、いちばんややこしい相手へ。
🍶 直治、帰還
🚬
直治
うわ、家の趣味すごいな。中華料理屋みたいじゃん
かず子
帰って第一声それ?
👒
🚬
直治
ママ、やつれたな。こんな世の中、見てるほうがつらい
🚬
直治
舌が痛い? たぶん心のほうだ。マスクして薬しみこませとけ
🌸
お母さま
致します
※息子の言うことだけは素直に信じる母。娘はちょっと複雑。
🚬
直治
じゃ、東京で用事あるから。お金ちょうだい
かず子
帰ってきて即それか……
👒
✉️ 返事の来ない手紙たち
かず子
上原さんへ。私、いまの生活のままじゃ息ができない。あなたの子どもがほしい
👒
かず子
返事なし。もう一通。もう一通。……まだ返事なし
👒
※既読もつかない時代の待ち時間、心だけが先にボロボロになる。
🤍 母の衰え
かず子
お母さまの手、むくんでる……いや、いやだ
👒
🚬
直治
近いぞ、そりゃ。なんにもいい事ねえな
👨‍⚕️
三宅先生
……手のつけようがない。そのつもりでいたほうがいい
※宣告は短い。受け取る側の時間だけが、そこから急に長くなる。
🐍 縁側の沓脱石
🌸
お母さま
蛇の夢を見たの。そこに、いるでしょう
かず子
……いませんわ、お母さま
👒
※いた。けれど認めたら何かが決定してしまいそうで、娘は嘘をつく。
🌸
お母さま
世間は、わからない。みんな子供です
かず子
……うん
👒
🌆 秋の黄昏
🌸
お母さま
忙しかったでしょう
かず子
いいえ
👒
※これが最後の会話になるなんて、その瞬間は誰もちゃんと信じられない。
🕯️ お母さま、亡くなる
🍂 その後
かず子
戦闘、開始。私は生き残る。恋でも子どもでも、つかみに行く
👒
🚬
直治
姉さん。僕は貴族です。……さようなら
※弟は先に降りる。残された姉は、愛と反抗を抱えたまま、別の地獄へ歩き出す。
かず子
私は負けない。古い道徳とも、孤独とも、全部まとめてやる
👒
  • 没落の中で揺れる家族
  • 上品さと生の執念の衝突
  • 愛は救いでもあり破壊でもある

太宰治『斜陽』のあらすじ

かず子は、戦後の没落した華族の娘として、病弱な母と伊豆の山荘で静かな暮らしを始める。だが、暮らしの不安、弟・直治の帰還、母の衰弱、そして自分の秘めた恋が重なり、その平穏は少しずつ崩れていく。母への深い愛情と罪悪感、弟の苦しみ、時代の変化の中で、かず子は古い価値観に従うだけでは生きられないと感じ始める。失われていくものを見送りながら、彼女は自分の欲望と未来を賭けた選択へ踏み出していく。

斜陽』の作者について

太宰治(1909-1948)は、戦後文学を代表する作家のひとりで、『人間失格』『ヴィヨンの妻』などで知られる。『斜陽』は1947年発表の長編で、戦後の価値観の崩壊や旧華族の没落を背景に、家族・恋愛・生の執念を濃密に描いた代表作である。タイトルの「斜陽」は流れゆく旧時代の象徴として広く知られ、この作品によって「斜陽族」という言葉も生まれた。

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