伊東から
何気ない宿題の一文が、病気の少女の心と書き手の感性をふっと遠くへ連れ出してしまう。
♨️ 伊東の宿から手紙を書く朝
芥川龍之介
佐佐木さん、ちょっと聞いてほしい
🖋️
芥川龍之介
新聞って普通、文芸作品は文芸欄に載せるよね?
🖋️
📰
佐佐木茂索
まあ、だいたいはそうですね
芥川龍之介
ところが今日の静岡版、文芸欄じゃない場所に名作が紛れ込んでた
🖋️
📰 新聞の「きょうの自習課題」欄
芥川龍之介
『さくらの花はどんな作りですか?』
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芥川龍之介
『花こう岩はどんな鉱物からできていますか?』
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芥川龍之介
『海そうの役に立つところをのべなさい』
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※急に小学生の宿題を詩として読み始める文豪
📰
佐佐木茂索
え、それ宿題ですよね?
芥川龍之介
いや、これはもう詩だよ
🖋️
芥川龍之介
特に『さくらの花の作り』って言い方、妙にいい
🖋️
芥川龍之介
編集ミスかもしれないけど、こういう作品は文芸欄に入れてほしい
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※世の編集者が少し身構えるタイプのご意見
🏨 同じ宿の応接室
芥川龍之介
で、今朝その宿題を読んでる少女を見かけたんだ
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芥川龍之介
12、13歳くらいで、顔色が白くて、ずいぶん弱って見えた
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👧 少女がテーブルにもたれて新聞を読む
芥川龍之介
その子、すごく熱心に『きょうの自習課題』を読んでた
🖋️
📰
佐佐木茂索
宿題に見入るって、なかなか珍しいですね
芥川龍之介
でもね、その顔がまるで別の景色を見てるみたいだった
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芥川龍之介
桜の花とか、石の中身とか、海のぬれた藻とか、頭の中に広がってたんじゃないかな
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※宿題一枚で世界を開いてしまう想像力、つよい
芥川龍之介
正直、その宿題を書いた人に芸術的な嫉妬すらある
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📰
佐佐木茂索
小学生向け課題に嫉妬するんですか
芥川龍之介
するよ。だって一行で人をうっとりさせてるから
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芥川龍之介
文を書く者なら、ああいう一行を書けたら最高だよね
🖋️
📰
佐佐木茂索
なるほど…文芸欄、見直します
※新聞の片隅に、文学がしれっと潜んでいた話
- ▶詩は意外な場所にある
- ▶想像力は一行で動き出す
- ▶文学は説明より気配
芥川竜之介『伊東から』のあらすじ
伊東に滞在していた書き手は、新聞の「きょうの自習課題」欄に並んだ小学生向けの設問を読み、それをまるで詩のようだと感じる。本来は文芸欄に載っていてもおかしくない、と半ば本気で編集者に手紙を書く。さらに同じ宿で療養している少女が、その課題をうっとりと読んでいる姿を見かけ、短い言葉が人の心に広いイメージを呼び起こす力に気づく。ささやかな新聞の一欄から、文学とは何かを逆照射するような一篇である。
『伊東から』の作者について
芥川龍之介(1892-1927)は、大正期を代表する小説家で、『羅生門』『鼻』『河童』などで知られる。鋭い知性と繊細な感受性を持ち、短編小説だけでなく随筆や書簡風の文章でも独自の美意識を発揮した。この作品は、日常の些細な出来事の中に文学の気配を見いだす芥川らしい感覚がよく表れた文章である。
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